2017年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏。
両親が日本人で、幼年期に渡英した日系英国人です。
ノーベル賞を期待されていた作家です。
すべての長編小説と短編集が電子書籍化されています。
カズオ・イシグロの経歴
1954年 | 長崎市で出生。 |
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1960年 | 海洋学者だった父に伴って一家で渡英。 |
1981年 | 大学院時代に執筆を開始。短編小説をリリース(未翻訳)。 |
1982年 | 初の長編小説「遠い山なみの光」を出版。王立文学協会賞を受賞。9カ国語で翻訳される。 |
1983年 | イギリスに帰化。 |
1986年 | 長編2作目「浮世の画家」でウィットブレッド賞を受賞。 |
同年 | イギリス人女性と結婚。 |
1989年 | 長編3作目「日の名残り」で英国最高の文学賞ブッカー賞を受賞。 |
2000年 | 長編5作目「わたしたちが孤児だったころ」がベストセラーに。 |
2005年 | 長編6作目「わたしを離さないで」は世界中で話題に。英米合作で映画化・舞台化される。日本でもドラマ化・舞台化されている。 |
2017年 | ノーベル文学賞受賞。 |
35年間に出版した長編小説は7作品で、作家の中では寡作なタイプです。
代表作2編
カズオ・イシグロを読むなら、まず以下の代表作2編をおすすめします。
(画像をクリックするとAmazon Kindleの該当ページに移動します)
日の名残り
老執事の回想が静かに語られます。
回想は主人公の思い込みに過ぎないことが徐々に明らかになり、隠された葛藤が間接的に示されます。
1993年に映画化されました。
映画も高い評価を受けて、アカデミー賞8部門にノミネートされました。
わたしを離さないで
静かな回想として語られますが、激しい感情を揺さぶられる衝撃的な物語です。哲学的な問いを投げかけてきます。
英米合作で映画化されています。
日本でも綾瀬はるか主演でドラマ化されました。
カズオ・イシグロの長編小説を一覧で紹介
上記で紹介した代表作も含めて、すべての長編小説を出版年順に紹介します。
「遠い山なみの光」1982年
イギリスに暮らす悦子は、娘を自殺で失った。喪失感に苛まれる中、戦後混乱期の長崎で微かな希望を胸に懸命に生きぬいた若き日々を振り返る。新たな人生を求め、犠牲にしたものに想いを馳せる。
初の長編小説は、著者のルーツである日本の長崎を舞台にしています。カズオ・イシグロの重要な手法となる「回想」がすでに使われています。
「浮世の画家」1986年
戦時中、日本精神を鼓舞する画風で名をなした芸術家の小野。弟子たちに囲まれ、大いに尊敬を集める身分だったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。
老画家は過去を回想しながら、みずからが貫いてきた信念と新しい価値観のはざまに揺れる。
長編小説の2作目も日本が舞台。やはり回想形式が使われます。
「日の名残り」1989年
短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。
著者の名声を不動のものとした代表作です。英国最高の文学賞であるブッカー賞を受賞。
「充たされざる者」1995年
世界的ピアニストのライダーは、あるヨーロッパの町に降り立った。「木曜の夕べ」という催しで演奏する予定のようだが、日程や演目さえ彼には定かでない。ただ、演奏会は町の「危機」を乗り越えるための最後の望みのようで、一部市民の期待は限りなく高い。
過去3作品とは大きくイメージが異なり、カフカ的な不条理を前面に出しています。前作が高い評価を得たので、新境地に挑んだのかも知れません。
「わたしたちが孤児だったころ」2000年
ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻る
上海租界を舞台にした冒険譚でありながら、記憶を頼りにした回想はどこまでも不安定な世界を描きます。
「わたしを離さないで」2005年
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。
彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。
代表作の1つ。グロテスクでSF的な設定ながら、表現しがたい余韻をもたらす傑作です。
「忘れられた巨人」2015年
奇妙な霧に覆われた世界を、アクセルとベアトリスの老夫婦は遠い地で暮らす息子との再会を信じてさまよう。
古代を舞台にして、古い英語の雰囲気を出した擬古語の文体で書かれています。
カズオ・イシグロの短編集
2009年に初の短編集が出版されました。
音楽をテーマにした5つの短編集です。「人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く」(BOOKデータベース)。
執筆スタイル、日本と村上春樹のこと、家族
文春オンラインで、カズオ・イシグロ氏のインタビューがありました。
執筆スタイル、日本のこと、村上春樹氏との交友、家族のことなどが語られています。とても興味深い内容でした。
ところで、ノーベル賞受賞後の会見で、(村上春樹氏が受賞していないので)「少し罪悪感を覚える」といった発言がありました。
カズオ・イシグロ氏は英語圏の大作家なので、会見の発言としては意外感があり、日本へのリップサービスなのかな?と思っていました。
しかし、上記のインタビューを読むと、「(村上春樹氏は)国を超えた作家です。現時点で、村上春樹は現代文学の中で非常に関心を引く何かを象徴しています。」とありました。
日本の一般読者が考える以上に村上春樹の存在は大きいのかも知れません。
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